『 忘れ物 』
出かけようとする俺を、小さな足音が引き止める。
「聖司先輩、忘れ物ですよ」
その声とともに、首元をふわりと優しいぬくもりがなでる。
「今日は冷えると言っていましたから、これで暖かくしていてくださいね」
彼女はそう言って、俺のお気に入りのマフラーを手渡してくれた。
設楽聖司2 |
「それを言うなら、お前だって忘れているじゃないか」
不思議そうに首をかしげる彼女の耳元に、そっと唇を寄せる。
「いってらっしゃい、のキスがない」
俺の言葉に驚いたように目を丸くしたかと思うと、みるみるうちに真っ赤になる。
「先輩の意地悪っ!」
そう言いつつも、彼女は恥ずかしそうにだが、静かに瞳を閉じる。
彼女が分けてくれるこの甘い熱があれば、冬の寒さなど微塵も感じないんだよな。
設楽聖司2/差分 |
~Fin~